それは、2月28日のことだった。
仕事帰り、近所のコンビニ前に体格の良い男子がたむろしているのに出会った。
よく見るとその中には我が息子の姿も。
他の少年たちは、幼稚園・保育園時代から仲良くしている良く知った子ばかり。
ほとんどが野球やサッカーをしているから、身体だけは大きい。
ちょっと声をかけて、私は家へと急いだ。
夜の11時を回って、寝る支度をしていた時、「あれ、まだ帰ってこないな」と気になった。しかし、その日は高校入試が全て終わり、続く学期末試験も終わったというめでたい日だったので、少々遊ぶに違いないとは思っていた。
息子は、推薦入試で1ヶ月早く合格が決まっていたので、勉強中の他の友だちに遠慮して、じっと自宅で過ごす日が続いていた。
一般入試は、明けて1日が合格発表である。
そこに電話が鳴った。
何と、警察からだった。
よもや、交通事故か、喧嘩に巻き込まれて怪我でも、と不安が過ぎる。
しかし、警察によると、
「息子さんが、入ってはいけないところへ入ってしまいました。不法侵入で補導しましたので、身請けに来て下さい」とのこと。
『入ってはいけないところ』という曖昧な説明ながら、すぐ参りますと返事して電話を切った。
自転車を漕ぐ顔に、深夜の風が冷たい。
まったく、なにをやらかしているのやら...。
警察に着くと、すでにひとりの母親が呆然とした顔で書類を書いていた。
人の好さそうな警察官が出てきて、
「科学館の屋上で騒いでいた」
と言う。
書類を書き終え、しばらく待っていたら息子が出てきた。
「かなり、反省しているようですが、以後は気をつけて下さい」
丸顔の警察官は、続けて
「せっかくの四番打者なのにねぇ、高校でも野球続けるんだぞ」
私には「ご苦労様」と頭を下げて笑顔で送ってくれる。
「屋上で何やってたの」
「ポコペン」
「騒いだんでしょ」
「うん、隠れるとこいっぱいあって、盛り上がった」
ポコペンは、かくれんぼの一種である。
9時頃扉の閉まった科学館に忍び込み、外から伝って屋上に上がり、かくれんぼをしたらしい。
幼馴染みというのは、集まると幼児化現象が起きる。
「そしたら、パトカーが来た。どんどん来て8台来た」
近所の人が、騒ぐ声を聞きつけ、不良の喧嘩だと思って通報したらしい。
「10人くらい警官が来て、何してるんだ、って」
「それで、何て答えたの」
「だからぁ、ポコペンしてました、って。そしたら、何だ、それ、って言うから、かくれんぼです、って言った」
パトカーは8台もあったので、5人の友だちは、ひとり一台ずつに分かれて乗せられ、警察署へ行ったという。
毎日、真面目に部活と勉強をし、それほど外に出かけない息子が、開放感からたまたま夜遊びしたら、一発で御用である。
じつは、二番目の娘はかなり不良だった時期があり、とくに中学の後半、金髪に髪を染めて夜な夜な遊び回っていた。その仲間には、喧嘩などで鑑別に行った子が何人も居て随分心配したものだが、なぜだかその娘は一度も補導されなかった。
今では、真面目な普通の生活になっているが、この出来の良い弟の補導事件、彼女にとっては大変嬉しいことらしく、中学校時代の悪い友だちの写真など引っ張り出して武勇伝を語ったりしている。
今だから笑って済ませられるが、初めて聞くことばかりで、私しゃ背筋がぞーーっとした。
人には運・不運、というものがある。
息子の場合、難関突破で第一志望に推薦合格した後でこれ。
運を相殺したと思うしかないか。
それにしても、ポコペンで補導とは、まったくなんのこっちゃ。
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