仕事のゆくえ

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 人が仕事をしているのを見たり、読んだりするのが好きである。
先日は、テレビの情熱大陸で、長野県の小学校で金管バンドを指導している音楽教師、桜井睦子さんを見た。

 私が音楽を教える時、最初に考えることは、ひとりひとりの生徒が望むレッスンの内容とレベルのことである。音楽ジャンルは広く、力量や経験のレベルはさらに幅広い。相手の要求がどこにあるかを見つけるのは大切なことだ。カリキュラムに拘らず、こちらの引き出しから、その都度、相手にマッチすると思われるものを探し出し、差し出す。その生徒が何を望んでレッスンに来ているのか、早いうちにそれを掴めないと、あらぬ方向に行ってしまう。

 人によって、音楽を習う目的は様々だ。
 極端には、健康維持という場合もある。ボケ防止や他の生徒仲間とのお付き合いが主眼の場合、あるいは、気晴らし程度に楽しみや趣味として練習する場合、少しでも上手くなりたい、納得いくまでやりたい、長く触れてきた音楽をより深く理解したいという場合...。
 そういうことを探り探り、レッスンの短い時間に、それぞれの想いが満足させられるよう工夫する。

 情熱大陸の桜井先生は、5年生と6年生全員参加を前提に、長時間にわたる厳しい練習を組み立てている。まずもって、全員を参加させるというところが凄い。周囲を納得させるには、先生本人が、同僚や保護者たちから信頼を勝ち取らなくてはならない。
 その努力、前向きで健康な意欲、体力。
 とくに、生徒に対する姿は、音楽の完成度を目指すより以前に、生徒に対する愛情に裏付けられていると感じた。
 音楽に信頼はありながら、それは愛することの手段として、師弟の間に置くべきものだという態度。

 桜井先生は、帰宅してからも生徒たちのために編曲に打ち込む。家の中は音楽と、金管バンドのもので溢れかえっている。
 先生の本棚が映った。
 そこに、私の書いた「クラシックの名曲100」があった。
 私は、はっとした。
 いつも、私の著書を買って下さる方たちのことを空想していた。日本中の書店で、どのような人が購入し、利用して下さっているのか、本当に役立っているのか。
 書き終えて手放したその先は、いつも曖昧として描きがたかった。
 けれども、感心しながら見ていた桜井先生の本棚に、私の著書があったのだ。

 それは、嬉しくもあると共に、襟を正させる出来事だった。どの本も真剣に取り組んでいるつもりだが、さらに、もっと勉強してもっと良いものを書かねばならないと思わされた。
 真剣に仕事をするときに、参考になればと手に取って下さる人が、これからもたくさんにいるに違いないのだから。

 自分の仕事について、思わぬところでその行方の一端を知ることができた。それも、感心しながら観ていた番組の中で。
 この幸運は、大きな励みになる。

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このページは、kyokotadaが2009年5月27日 19:04に書いたブログ記事です。

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