kyokotada: 2008年7月アーカイブ

 急に思い立ってレコーディングをした。
 いえ、私の、ではなく、遭わせてみたいミュージシャンを呼び集めてのこと。
 ひとりは、毎度おなじみの加藤崇之ギター。
 彼のユニークさは、多分こういう堅固なリズム隊によってより際立つだろう、
と考えて集めたメンバーは、
 松下誠ギター、多田文信ベース、宮崎まさひろドラム、である。
 つまり、ツーギターのロックバンド体裁で、ロックにとどまらない音楽をやってみようという企み。
 曲はすべてメンバーのオリジナル。
 それぞれが、既に持っていた曲、あるいはこのメンツでやってみたいと思う曲を書いて持ち寄り、インターバル1週間で、2日間録ってみた。
 第1日目は、初顔合わせのメンバーもいたため、多少固く、プレイもやや緊張ぎみだった。しかし、それすら効果のひとつと化し、緊張感がうまく働いて素晴しくアグレッシブな雰囲気が出ている。
 私は、企みが予想以上にはまり、今までどこにも無かったようなサウンドが生まれたのを喜んで良いはずなのに、うまくリアクションができない状態に陥った。
「かっこいい」とか「感動する」以外のものが沸き上がってしまったのだ。そして、その印象をどう表現すべきなのか、術がない感じだった。
 感情が出てこないような、妙な気分...。
 実際、2回目のレコーディングに来た松下誠が私に、「前回って体調悪かった?」と訊いたくらいだ。
 それは私が、固まっていたからに違いない。
 だが2回目は、全員、旧知の友だちのようにリラックスし、自分丸出しで演奏した。
 私も、オリジナルではないが、1曲歌で参加し、何となくアルバム1枚分、全曲録れてしまったのであった。
 レコーディングは、トータルにしてわずか8時間ほど。
 それで7曲完成である。素晴しい。
 全員で、初めての楽譜を見ながら、作曲者の説明を聞き、1回通してリハーサルしたら、次には本チャン。それが全て。
 2テイク以上録った曲は1曲のみ。
 メンバーは、1テイクめが最高ということを経験によって知っており、何度もやるなんて新鮮さに対して申し訳ない、という気分だった。

 同じような意味で
「もったいないからあまりたくさんリハーサルやらないでおきましょう」
という発言の出たライブもあった。
 石井彰ピアノと金沢英明ベースとともに、うちのスタジオでライブをしたのだが、この「もったいない」という言い方が、まさに今回のレコーディングの雰囲気と同じだった。
 私の歌はメンバーの知っている曲ばかりなので、本番に於ける全員の最初の発想、アドリブをできるだけ新鮮な気持ちで楽みたい、ということなのだ。
 リハーサルを繰り返すたびに、生まれ出る発想に託すわくわく感は薄れ、やがて緊張感も集中力も緩くなる。
 せっかくのライブで、そんな事態を招くのは不本意である。
 じつに「もったいない」

 レコーディングメンバーもライブのメンバーも全員、豪華な音楽キャリアを持っている。
 その過程で、何千曲、ひょっとすると、万に上る曲を演奏している。
 それら、日々の演奏の経験が、ひとつずつの曲に結晶し続ける。
 どんな曲をやっても、その中に生涯にわたる音楽への愛情や情熱がアイディアとともに溢れんばかりに注ぎ込まれるのだ。
 プレイヤーにとっては、究極の遊びであり、リスナーにとっては、至福の時。
 コントロールルームで、誕生したばかりのセッションを聴きながら、しみじみスタジオを見回し、人生、何がおこるか分からないものだ、と感じ入った。 
 忙しい。
 自分で撒いた種とはいえ、忙しすぎる。
 そのため、スケジュール管理は止めることにした。
 自分でスケジュールを決めようとすると、呆然とするのである。
 何かを減らしたいと思うが、何をどう減らせば良いのか分からない。
 仕方がないので、仕事以外の時間は、ひたすらぼーーーーーーっとすることにしている。
 今日は、久しぶりに涼しい。
「すずしいなー」と喜びながら、おむすびを食べ、梅ジュースを飲む。
 憩いである。
 忙しすぎて困るのは、頭が冴えて眠れなくなることだ。とくに、曲を書いたり、詞や文章を書く仕事では、いたずらに頭が冴え渡って、変にハイになり、眠ったと思ったら目が覚め、次にはなかなか寝付かれず、成り行きでほとんど寝ずに毎日過ごすことになってしまう。
 眠れないとき、私はたいてい妄想している。
 曲のアレンジやアドリブを思い浮かべたり、頭の中で企画を膨らませたりする。多分、仕事と言えば仕事だけれど、私の場合、それらはもう「楽しい妄想体験」という、レクリェーションになっているようだ。
 暗闇の中で寝返りを打っている私の頭の中には、ジャズのカルテットがいてどんな曲でも演奏してくれるので、それに乗って歌い回しを考えたり、スキャットしている。もちろん声は出さず、どこまでも頭の中で、である。これを続けていたお陰なのか、小原哲二郎さんがセッションで突然、「ドラムと歌のデュオでやろう」と言ったときも、不思議とできたりするようだ。
 夜中の3時頃から明け方まで、「うーーん、眠れない」と思いながら、さんざん弄ぶ多量の妄想が、昼の間、意外に受けの良い「企画」としてまとまったりもする。
 妄想は、別に夜中に限らず、昼間の「ひとりブレスト」の時間にも湧き上がりまくっている。白い大きめの紙と、日頃から、思いつきや抜き書きをためてあるメモ帳を前に置き、変なことをいっぱい考える。
 考えながら、その断片を白い大きい紙に地図や絵のように書き入れて行くのだ。その紙を見たスタッフのにこちゃんは、当初「多田さん、疲れている」と思ったそうだ。だが、それは違っていた。字を間違ったり、言い間違ったりしているのではなく、駄洒落てみたり転けてみたり、ちろっとはずすことで、物事はあらぬ方向へと展開し、さんざん色々なものを拾ってひとまわり、ついには元に戻って来たりもするのだ。
 今ではにこちゃんも馴れて、私のしょうがない駄洒落をネタに、新たな妄想へと走り込み、別の世界観を提示してくれることすらある。
 こういうのは、自然増殖するのだ。

 眠れない夜中には、ミュージシャンから変なメールも来る。それでまた、布団の上に座り直し、彼らの頭の中を心配しながら再び妄想するのだ。 

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