「細雪」ごっこ

user-pic
0

 私は、和服をどっさり持っている。
 着物好きな友人に見せたりすると、驚かれるほどである。
 だが、自分で買ったものは一枚もない。
 全部実家から送られてくるのだ。
 祖母は、日舞を趣味としており、終生着物だけで過ごした人。
 形見分けで残った渋い普段着が数枚と、粋な裏をつけた黒い羽織などがある。
 母は、正装のほとんどを着物にしていた。
 こちらはゴージャスなものと小紋、色無地に大島、紬など。
 もちろん、嫁入り道具とかいう着物もひと通り揃えてもらったので、見渡すと、死ぬまでに着る着物が全部あるという感じだ。

 それが全部タンスの肥やし。
 全く着ていない。

 ある日の酒席で、現在お着物にどっぷりとはまっている編集者のSさんが言った。
 「ねえ、秋の紅葉の頃、小金井公園あたりで、ささめゆきごっこ、しない?」
 その「ごっこ」の中味は、そこにたまたまいた四人の女して、和服で集まろうというものである。
 「ほら、歳も一個ぐらいずつ違うし、なりきって集まろうよ」
 その伝で行くと、Sさんは三女の役。
 市川昆監督の映画「細雪」なら吉永小百合の役だ。
 「あら、私が小百合だわ」
 とSさんだんだん盛り上がり、私は古手川祐子ということになった。
 ならば振り袖着ても良いのだろうか。
 あの映画では、古手川、花見のシーンで桜の振り袖かなんか着ていたような気がする。振り袖、しかも桜のがタンスにあるんだ。縮緬で、白地に桜と扇の模様を散らした振り袖が。あれ着てやろうかしらん。
 そこではっと我に返る。
 予定は秋。
 私は、しじゅうはちである。
 でも、この「ごっこ」には心が躍る。
 着物を着たくなってしまう。
 四人の中でひとりだけ貧乏暇無し余裕無しの私だけれど、思わず声を張り上げてしまいました。
 「細雪ごっこのための電話連絡網作ろうか」
ちなみに、その日たまたまひとり混じっていた男子、好青年のGさんは、その行事に於いて石坂浩二をやる羽目になったのだった。
 Gさん、すいませんねえ。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://tadakyo.web5.jp/mt/mt-tb.cgi/32

コメントする

このブログ記事について

このページは、kyokotadaが2004年5月26日 11:49に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「足の臭いに付箋?」です。

次のブログ記事は「Jazz...というもの」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。