突然、シバ君からメールが届いた。
25年も音信不通だった親友。
読み始めてすぐ、涙が溢れる。
だって文章が優しいんだ。
小樽の高校で、シバ君はなかなか目立つ存在だった。
大人びていて、ひねくれていて、アーティスティックで、意地悪で。
何より、曲作りのセンスとギターのテクニックが素晴らしかった。
小樽近郊の田舎町からSL機関車でその進学校に通っていた私にとって、彼は正に、初めて出会う「才能」だった。
中学時代から、私は私で、ガットギターを抱えてフォークソングを歌っていた。
どこでどう接近したのか、いつの間にか私たちは一緒に演奏して遊ぶようになった。
彼は、ツーフィンガーやスリーフィンガーをバリバリ弾いて、高田渡さんの話やら、詩人の夢枕獏の話しなんかをしてくれた。
知らないことばかり。
私は感心して、感動し、競うように本を読んだり音楽を聴いた。
シバ君は、絵描きになりたいと思った。
美術部に所属し、いつも汚い白衣を着て絵を描いていた。
美術室は音楽室の下にあり、混声合唱団にいた私は、その音楽室でソプラノパートを歌っていた。
シバ君にとっては、合唱部なんて「へっ」て感じだったらしい。
美術部のゴミを燃やして煙を出す嫌がらせ。
真面目な音楽部員は、そのひねくれた絵描き志望の不良が私と仲良しなのが解せないらしかった。
ある日、シバ君は、もうひとり素敵な友だちを連れてきた。
隣の高校に通っているひとし君。
彼は、シバ君よりかなり絵が上手く、ギターも同じくらい上手かった。
負けを知らなかったシバ君が、尊敬する数少ない友だち。
今度は三人でのフォークグループということになった。
音楽の練習と、私をモデルにしてのデッサン練習。
ひとし君のデッサンは、本当に素晴らしく、想像をはるかに超える美術の「才能」が、突然身近になった気がした。
私たちには、さまざま恋愛も入って、青春満喫。
書き始めたら、小説になっちまいそうなくらいたくさんの思い出。
10年前まではそれが生々しくて、思い出すと少しにがかった。
でも、今は自分の幸運に感謝する。
小樽潮陵高校で私はシバ君に出会い、負けるのが悔しくて本を乱読し、歌い、そして自分に期待した。
私の人生は、彼らと出会わなかったら変わっていた。
もっと楽になっていたか、辛くなっていたかは知らない。
でも、出会えて良かったと、心から思う。
だって、思い出すたびに、私は必ず、少し微笑んでいるんだ。
コメントする