布団に入ってうとうとしたら、隣の部屋でまだ起きている次女が電話をかけ始めた。
「彼氏」と話しているらしい。この娘はいつも誰か彼かとお付き合いしている。本人が「私はモテる」と言うのだから、きっと本当なのだろうと思う。これまでも、いくつかのアルバイトを、しつこく言い寄るストーカーまがいの男の出現のために辞めたりしている。
もっとも、本人は自分のことを太っていると思っており、なぜ自分がモテるのか良く分からないとも言う。天然の自分の美しさには自信がないらしく、いつもしっかりお化粧をして、着るものにもうるさい。まあ、魅力的に見えるとすれば本人の努力の結果もあるだろう。
電話の内容は、喧嘩とまでは言わないが、ある問題についての意見交換であるらしかった。娘がしようとしていることを、彼氏が気に入らず、それを絶対にしないことを約束せよ、と迫っているらしい。
娘は頑迷に抵抗する。「別に、今それをしないとどうにかなると言うことではないが、したくなったときに約束を破るかも知れない可能性はある。自分でも、いつ気が変わるか知れないので、そんな破る可能性のある約束をするわけには行かない」というのである。話は相手の説得に娘が応じない、ということの繰り返しで長々続いている。
寝鼻を挫かれて参ったな、と感じながら、しかし私は娘の抵抗をなかなか頼もしいと思っていた。
私自身は、彼氏ができるとすぐ迎合していた。大変素晴らしい父親に恵まれたお陰ですっかりファザコンになり、男性とは素晴らしい、尊敬すべき存在であると固く信じて育ったからである。ステディとなれば、彼の気に入る女性になろう、彼をバックアップしようと根拠のない尽くし方ばかりしてきた気がする。多分、それで人生を誤った。
そんな私を、娘は時に歯がゆく思っている。
とすれば、私は反面教師として、彼女をある意味男女平等の権化みたいな娘に育てることができたのかも知れない。
彼女は、彼氏に何と言われようが信念を曲げない。
私は思った。口先約束して、現実にはそれを破ったとしても、彼氏がそれを知ることはないかも知れないではないか。私なら素直にその約束を受け入れ、懸命にそれを守っているところを見せ、相手の愛情に保険をかけたつもりになるかも知れない。
しかし、娘はそれをせずに、自分の在り方を頑迷に曲げない。
私は変に感心してしまった。
女がそういう風に主張をしても、今時は「女らしくない」などと言われる風潮はないのだ。
さんざん、言い合いをして、何かの拍子に娘が言い放った。
「それなら、今電話から5m離れて、○○が好きだと叫べ」
○○は、娘の名前である。
彼氏は素直に叫んだらしい。それに対し彼女は、
「5m離れてないじゃん。ふん、みんなにバカだと思われるよ」
だと。
爽快である。
私は、自分にはそんなものすごいこと、一生言えないなぁ、と思い、そんな自分のふがいなさを心から残念に思うのである。
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