ZoolooZ 第4曲目

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本日は第4曲目

「泣いて笑って」

作曲 加藤崇之

メンバーがWether Reportっぽい、と言うのだが、私にはクラシックに聞こえる。

クラシックというより、そのルーツとなるフォークロア。


このタイトルに対しては、青春の蹉跌みたいな物が書きたいと思いながら、なぜだか女の子が主人公になってしまった。その発生源のわからなさが楽しくて文章を書く。



4.泣いて笑って

 

パパが泣いたところは見たことがなかった。

あの、たった1回の涙以外は。

 

パパはいつも少し笑ったような顔をしている。

仕事から帰って来ると、いつも私の頭を撫でながらお利口さんだったかな、と訊く。私の機嫌が悪くて、首を振ったりすると、少し笑った顔がもっと笑う顔になって「おやおや」と言うのだ。

ご飯を食べたら、その「悪い虫」のことをパパに話してごらん。でもまあ、とにかくまずはお風呂とご飯だ。パパは一日中働いて来てくたくただからね。

パパはするりと上着を脱ぐと、自分の着替えを持ってお風呂に行く。

シャワーの音がする間、私は、パパに話したい色々なことを考えている。

学校できかんぼのミキちゃんが私の足をわざと踏んだこと。国語の時間に教科書を読まされて、漢字の読みを間違ったら隣のたくま君がゲラゲラ笑ってバカにしてきたこと。

私が待っている日、パパのシャワーは急いでいるみたいで、お風呂から聞こえる音がいつもより賑やかになる。

パパはお風呂から上がるとスウェットを着る。もう何年も同じスウェット。くたくたになった古いスウェットは、体に馴染んで着やすいと言っている。それからあっという間にご飯を作ってくれる。

家では、食卓でご飯を食べる前にお箸を持って頭を下げ、「ありがとうございます」と言うことになっている。そういう風習。お礼を言ってから「いただきます」になる。

食事の時は、楽しい話しにしよう、とパパが言う。

誰にでも、嫌なことや困ったことは色々とあるけれど、せっかくのご飯だから、そして農家の人たちが作ってくれた野菜だし、肉も魚も命を頂くのだから、自分ことで怒りながら食べるのはよそうね。

それは、異議無しだ。私は、お魚の骨が苦手だけれど、水族館で泳いでいる魚を見て、「食べられるために生きている」ということを辛いと思った。

美味しいご飯を食べ終わってみると、私の気持ちの中の「悪い虫」は小さくなって、それほど、息せき切って話したいことでもなくなっていた。だから、自分でも、ヘンなのと感じながら、普通のことみたいにパパに報告するだけになる。

ママは料理が好きで、そして上手だった。いつも本で料理の作り方を勉強していた。ママの夢は、私がもう少し大きくなったらどこかのレストランに勤めることだった。ママは、本当はプロの料理人で、私が生まれてから、いくじのためにお休みしているだけだったのだ。

でも、ママは時々、暗い顔でため息をついた。

あの日、テレビの料理番組に出た人を見て、息を呑み、独り言のように「かおるだ」と呟いた。「なんで...」とも呟いた。

その夜、パパとママは遅くまで話しをしていた。時々、ママの泣く声がした。パパは静かな声で話していたが、ママの声はだんだん大きくなった。

いつもは、ママがいろんなことでぶつぶつ文句を言ってもただ困ったように笑って、ママの機嫌が治まるまで色々な提案をするのがパパのやり方だ。そうやってパパはみんなの困ったことを吸い取ってくれる。

でも、あの日以来、パパの吸い取り機能は、だんだん目詰まりを起こし始めた。

パパの顔は、黙っていても笑顔っぽいのが良いと私は信じていたけれど、ママはそう思わないらしい。

「笑って済ませられないことが、この世にはあるのよ。とくに私の場合は...そういう性格だから」

ママは困っていた。パパも私もどうしたら良かったのだろう。

いつしか、ご飯の間、みんな無口になっていた。

ママは、いつも変わらず美味しいものを作ってくれたし、パパも少し笑ったような表情のままだった。けれど、誰もお話しをしなくなった。

私は、学校であったことを、言いたい時もあった。

でも、我慢していた。

 

パパが泣いたのは、ママが家を出て行った日だ。

いつものように少し笑った顔なのに、眼から大きな涙がぽとりぽとり落ちた。

いつまでも落ち続けた。

私は、パパと手をつないで、ママの居なくなった部屋に立ち尽くしていた。

ママはいつかテレビに出る人になるんだよね、と私はパパに言った。

そうしたら、また、ママに会えるじゃん、ラッキー、と私は言った。

すごく嘘だった。

全然ラッキーじゃなかった。

でも、パパの手は暖かくて、私は少し安心した。

何分も、何分も、ただ時間が経つ間、パパの眼からは涙が落ち続けた。

少し飽きたけれど、ここで付き合わないといけないと感じた。

長い間、じっと手をつないで立っていた。

そして暇すぎたからか、私はこのことを一生忘れないようにしようと、何度も心に誓ったりした。


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このページは、kyokotadaが2011年5月12日 11:07に書いたブログ記事です。

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