私はどうやって仕事を覚えたんだろう。
ふと、振り返るとよく解らない。
一度も会社に勤めたことがない。
結婚前は歌手で、結婚後は子育てしながら自宅でライターした。
ライター仕事が発展して、編プロや出版社にも出向くようになった。
それから歌手に復帰して教室を始め、ジャズレーベルを作り...。
高速でワープロを打っていて、あるいはピアノで歌伴しながらレッスンをしていて、ふと「いつの間にこれができるようになっていたのか」と感じ入る。
じつにいつの間にか、でしかない。
毎日たくさん仕事をするけれど、やらされ感はなく、体力的にきつかったりはするけれど、徒労感もない。
色々な人たちと出会って楽しいし、刺激もある。
いつどうやって仕事を覚えたのだろうか。
編プロでも、教室でも、上司はいなかった。
仕事を振られたときは、はじめから「取材行ってきてくれ」とか「企画書いてくれ」とか「一冊書いてくれ」とかだった。
歌の仕事はもっと早く始まっていたけれど、デビューしていきなり週1回のレギュラーになり、それが4本くらいあって、他にユニットを3つくらいかけ持ちしていた。
電車の中ではいつも歌を覚えるためにウォークマンを聴いていた気もするが、良く憶えていない。本当に、子育てが挟まったためか、色々良く憶えていないのだ。けれど、たくさん仕事をしている。たくさんしていると思うだけで、現在に至るその過程やひどいことに現在までもが、自分でよく解らない。
説明するときには、整理して色々教えてあげられるが、自分の身体の中や頭や心の中には混沌とした膨大なものがみっしり静かに潜在しているだけで、自分がどうやって色々なことをこなしているのか、本当によく解らない。
例えて言えば、私は色々な食材が入っている冷蔵庫やストッカーみたいなもので、作りたいものがはっきりすればそこから材料を取り出して、ぱぱっと料理する感じだろうか。
時々、今のストッカーの在庫状況で良いのか、とか、このストッカーで良いのか、とかはぼんやり考える。けれど、よくビジネス書なんかにあるような、「きれいに整理しました」「明確にコンセプト出しました」という感じでは絶対にない。
また時には、これまで作ったことのないものを想像してみようとも思う。そして、美術館とかに行って天才の作品を見て感心し、しかし、私は凡人範囲でいた方が良いようだ、と判断したりする。
歌なんかは、歌い出すその時まで、自分がどんな声でどう歌うか忘れている。歌い出すと、あ、これね、結構いけてるかも、と思ったりする。
こういう感じでいるので、日頃はとても緩い。
ほとんど、ボーッとして、お腹が空いてるな、とか何か飲みたいな、とかしか考えない。
素晴らしい。
まるで、天気の良い秋の日の空のようではないか。
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