ステージフライト

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ステージフライトとは、舞台恐怖症、つまり「あがる」こと。
よく、生徒の皆さんから「人前で歌う時に上がらない方法を教えて下さい」と頼まれる。
これは、とても奥深いテーマだ。
クラシックの名だたる演奏者でも、あがりまくって、ステージの袖でマネージャーや奥さんにどやされないと、ステージに出られない人もいるらしいし。

今朝、連休明けの気持ちのいい午前を歩いていて、突然「疾病利得とあがり症」というフレーズが浮かんだ。
疾病利得というのは、「その症状のために患者が得する」ことを指す。
精神科や臨床心理の現場では、その症状を介して、患者さんがどんな得を手に入れているかを探る方法がある。
もちろん、得をしすぎて命が危ない場合もあるので、狡いとか、要領がいいといった解釈は通用しない。
どちらを取るにしても命がけ、という臨界地点での選択なので、それこそが病理であり、治療を要することなのである。
最も良く知られているのは、軽い物だと急性下痢。会社や学校に行こうとしても、お腹が下ってままならない。言うまでもなく出社拒否、登校拒否の正当化になる。
あるいは、拒食症。痩せた姿を美しいと思って自己評価を上げることができるが、健康を害する。

ステージフライトも、これらに似た原因を持つような気がする。
「あがっちゃって上手く歌えませんでした」
というのは、「下手です」と言うよりはプライドが傷つかない。
「風邪引いてました」
「寝不足でした」
「仕事が忙しくて、練習時間が無く...」
といくらでもエクスキューズはあるけれど、つまり、その後にまだ余白を作っておきたいという点では、「まだ、これが実力なんかじゃないわよ」という、自身を励ます手だてにはなる。

自分の経験を言えば、あがらなくなった時には、あがらない方が余程良い演奏ができて、しかも疲れない、ということを納得した感がある。
自然体からそれほど離れない身体の状態で、適度に集中する。
ライブをやるために多くの時間や労力を費やすのだから、自分の最良の力を出せるコンディションを作らないと、それこそ「損だ」と納得するのである。
それ以前は、実力以上のパフォーマンスをしたがっていたり、奇跡が起きるかも、と変な期待をしていたりした。
だから良く言う「自分に期待しない」態度は大切だ。

最近、アメリカンアイドルという番組を見た。
現在は、最終4人にまで絞られていて、全員が女性だが、それぞれに素晴らしい力量。
審査員のコメントと私自身の感想とが共通していると、嬉しくなる。
審査される4人は、少しでもあがったり、慌てたり、集中力を欠くと、すぐさま指摘が飛んで来る。選ぶ楽曲にまで注文がつく。
曰く「意味不明な歌詞の、へんてこりんな曲を選ぶな」とまで言われる。
つまり、ヒット曲なのに、専門家の間で評価の低い曲を選んだだけで音楽的なセンスを問われるのだ。
「へんてこりんな曲」を書いた人も番組を見ているかも知れないよな、などと変な心配をしてしまった。
けれど、そこまで厳しくて、圧倒的に強靭でないと成功できないよ、というメッセージは凄い。アメリカの歌手がみんな上手いのは、プロは上手くなくてはならない、という前提があるからなのだろう。
日本は...なぜこうなの?
その風潮に合わせることは容易いけれど、それじゃ残念だよなぁ。

下手な歌手を野放しにする日本のエンターティンメント界の疾病利得は何だろう?


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このページは、kyokotadaが2013年5月 7日 12:57に書いたブログ記事です。

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