2015年6月アーカイブ

ドネーション

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ドネーションというものを初めてやってみた。
私の小さいジャズレーベルで、数枚ずつのリーダー・アルバムをリリースしているふたりのミュージシャンのために。

最初の電話が来たのは4月末。かつてリリースした自分のアルバムの原盤権を買い取りたいというものだった。
話はすぐに理解できた。
彼らが2000年前後にリリースしたアルバムを製作・販売していた会社が立ちゆかなくなっていた。
しかし、具体的な内容が良く分からない。
私の頭の中には、うちでリリースした原盤をミュージシャンに買い取らせる、という発想が無かったからだ。それは、私が会社を畳む時に、差し上げるものだと決めていた。

まずは情報集め、と思い、同じようなジャズレーベルを長くやっている知り合いに電話してみる。
さすがに情報通の知り合いによると、倒産する会社は、250ものタイトルをグロスで売るために大きめの会社をずいぶん回ったようだということだ。しかし、どこも引き受けなかったため、仕方なく、ミュージシャン個別に買い取りを打診してきたということらしい。
価格は、1タイトル10万円で、ふたり分を合わせると9タイトルある。これに消費税が乗り、在庫品を買い取るのに計15万円ほどかかる。優に100万円超の出費だ。

価格的には高くないのだろうが、私のレーベルも豊かではないし、次にすぐ新譜のレコーディングが控えているから、いきなりそれだけのキャッシュは出し難い。
まずは当人たちにできるだけ借金してくれと頼んだ。足りない分くらいなら、何とかなる。

原盤権とは、レコーディングした時のマスターやジャケットデザインのデータ、そして配信の権利のことなどを指す。ひとつのアルバム全体にかかる権利のことだ。
それが、銀行の抵当に入ってしまったが、期限前までに買い取れば、こちら側で管理できるという。
知り合いのレーベル社長は、「自分なら、借金してでも買い取るよ」と仰るほど、やはり、捨ててしまうことのできないものなのだ。

私の会社のホームページには、うちの作品を売るためのショッピングカートがあり、カードや振り込み、着払いなどで購入できる。これなら、寄付を募っても何とか対処できるかも知れない。
しかし、それでも腰の重い私に、ホームページ管理をしている会社の社長が、ページ立ち上げ分を寄付してくれた。つまり、無料でページとカート設置をしてくれたのである。

まずは、在庫として残っていたCDを買い取った。十数年前のものなので定価は今より低い。それに少し寄付を載せ、それと同額を寄付金のみとして、¥3,000均一のドネーションが始まった。
まずは、私の生徒たちやライブハウスのオーナーなどが現金の寄付を寄せてくれた。そして次第に、カートを使っての寄付が集まりだした。とくに、ふたりが、それらのアルバムにまつわる想いをホームページにアップし、それをSNSで告知した途端、数日で140件ものドネーションが集まった。

ショッピングカート、Eコマースの台帳管理と振り込み確認、決済確認をしながら、封入発送を続けること1週間。途上でほとんどのタイトルが品切れとなり、代替品を提案した手紙を同封したり、発送したり...。それもこの週末でやっとほとんどの片が付いた。

嵐のような毎日。
けれど、ひとりひとりのファンの方たちの気持ちが伝わって、やりとりしながら感動もあった。
知らずプレッシャーもかかっていたようで、口内炎がいっぱいできた。
SNSに「CD届きました」、という写真と投稿が載る度に、とても嬉しかった。

ミュージシャンは、フリーランスだから、たとえ実績があっても借金するのがとても大変だ。
家を買うのにローンを組むのも難しい。
私がそういう立場だから、急な、まとまった出費がどれほど大変か良く分かる。
そんな中で、呼びかけに応えて協力して下さるファンの方がこんなに大勢いたことに、とても感動した。作品が失われることを案じ、ミュージシャンの心中を察して、沢山の援助を下さった。

ジャズはマーケットが小さいと良く言われるけれど、じつは、この音楽を愛する人たちの熱意にはとても篤いものがある、と感じた。この音楽は、娯楽や気晴らしだけではなく、深い感動や充実をもたらしてくれるものなのだということを、無言で知らせてくれている気がした。

私は、ジャズをとても大切に思っている。
ポピュラーミュージックの上位概念を保つものだと信じている。
だから、今回の経験を糧に、自信を持って良いと信じることを伝えて行かなくては、と思いを新たにした。ちょっとしたお節介から始まったドネーション。じつは、二度とやりたくないと思うほど大変な仕事だった。けれど一方で、なかなか得られない素晴らしい経験だったことも間違いない。

ご協力下さった皆様に、心からの感謝と、I Love You All !! を送らせて頂きます。
8年前に出した『音楽記号事典』というものを、ハンディ版で再版したいという、版元からのご依頼で、しばらくぶりの書籍仕事をした。
再版なので、判型を変えて組み直して、ちょいちょいと空きスペースを埋めれば良いだろう、と高をくくった私たちであったが、豈図らんや、すごーく大変な作業になった。
まず、前回はCD付きだったため、その分の楽譜などが消滅。さらに、ページが大幅に増えたため、書かねばならない原稿が沢山。
数日間。かかりきりに書いて、それをゲラにして監修の作曲家川島先生に回したところ、細かな訂正が多量に出まくり、しかし、あまりに専門的なため、楽譜製作のオペレーターなどが混乱し、私が出張って解説し、また見直し。
まったく、どこまで続くぬかるみぞ〜、状態。
しかし、頑張った甲斐あって、2週間ほど詰めてやっと手離れした。

しばらくぶりにやってみて、出版仕事の大変さを思い出した。
果てない気力体力を要する。
たとえば午後一で仕事を始め、一段落した、と思ってふと時計を見るとすでに5時半だったりする。
その時間の経ち方は驚くばかりだ。

日々のレッスンも、午後一からこのくらいまで続くけれど、もっとゆったりしている。
家にいる休日ならば、時間は3倍くらいに感じる。

若い頃は、雑誌、ムック、書籍を掛け持ちして、取材した日にそれと別の原稿を書いたりしていた。
しかもそれを3人の子育てしながらやっていたのだ。
その上、ある時期には、クラシック音楽の勉強のために、2週に一度ヤマハの図書館で専門書を大量に借りて、その足でセラピストの勉強に行っていたものだ。

これはしかし、勉強好きだから、としか言いようがない。
勉強して色々分かってくると、興奮してしまう。
だからライター仕事で専門家に取材して、興味深い話を聞いたり、普通なら行けない工場内部とかに入れたりする度、大興奮していた。
じつに、ライター向きである。

その興奮を、今はボーカル教室で教えたり、ワークショップやったりしながら持続させている。
ひとりひとり、分かっていることもできることも違っている生徒さんたちに別々のことを選んで教え、成果を上げるのはとてもとても楽しい。
みんなでご飯食べたり、ライブに行ったり来て貰ったりも楽しい。

それに加えて、曲書いたりして、段々コードのこととか分かってきたりすると、これまた楽しい。
絵を描いてフライヤーを作るのも楽しい。
楽しいので、PCのソフトをもっと勉強しようと考えている。
さらに、息子にカメラを貰ったので、写真の勉強もしたいと思っている。

そんなんで、楽しすぎて、年齢を忘れる。
そして今年、私は還暦である。
還暦なので、恒例のバースディ・ライブと、ホールを借りて教室発表会をする。
さらに、長女の結婚式で家族揃ってハワイに行く。
なんとめでたいことでありましょうか !!

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