Jazz Vocalが、最近叱られてる

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ライブの楽屋で、FB上で、ミュージシャンがしばしば、ジャズ・ボーカルの悪口を言う。
軽薄だとか、下手くそが多いとか。
もっと、楽器奏者と同格に、自分の音楽性をしっかり持って、精進して欲しいと言う。
確かに。
私は、どちらかというとその精神でいたいと願い、自分をミュージシャンだ、と考えて来た。
ジャズ・ボーカルについて研究するし、練習するし、ジャズをより理解するために、他ジャンルの歌を練習してみたり、楽器やアレンジに取り組んだりもする。

だが、全てのジャズ・ボーカル好きがそうしたいはずはない、ということも身に滲みている。
スタンダード・ナンバーを、覚えて歌えば良い気分だ。
それが全てという気持ちも分かる。
歌手と同様に、すべての楽器のジャムセッション好きが、プロとして名を成す皆さんと同様の研鑽を重ねられるわけでもないと思う。
だから、プロとしてあるならば、ひっくるめて、取り組みの振れ幅、多様性を認めなくてはならない。
楽器を練習する人々こそ、ライブに良く来て下さるお客様なのだ。

美しいとか、可愛いことでお客様に恵まれるシンガーがいる。
愛嬌が有り、お話が上手だからファンが付くシンガーもいる。
強烈な個性で、芸術するシンガーもいる。
何が良いか、と言うよりは、それぞれが、持ち味を徹底的に活かすしかない世界だ。

自分のことを言えば、日々、生徒さんたちのレッスンと、自分の練習、楽譜制作や曲作り、アレンジをしているだけで日が暮れる。本当に、自分は歌のオタクだと思うことがある。
飲み歩いたり、ライブにお邪魔してシットインしたりする暇すらない。
やることは、楽譜と音源を照らして研究すること、歌うこと、覚えることだ。
それだけをしていて良いのかという疑念があったが、ある時こう思った。
「大竹しのぶが台詞を覚えなくてどうする」
大女優ですら、最初にすることは、本読みであり、台詞覚えである。
歌手は、何を置いても、まず歌を理解して曲と歌詞を覚えなくてはならない。

ただし、ほとんどのジャズボーカリストが、そこで止まっている。
そこから先が、多分お叱りを受けてしまう原因かと思う。
自分なりのアレンジとかフレージングを構築する。
歌いこなすリズム感やピッチを養う。
ボイスを鍛える。
ディクションを美しく改良する。

これらについて、どうにもできていない歌手が多いらしい。
ミュージシャンの話を聞くとそのようだ。
だが、できている人も多くいる。
そして彼ら、彼女らはちゃんとプロである。

若い世代でジャズボーカルが成り立ちにくい原因は、力をつけるハコがなくなったことが大きい。
私の若い頃は、毎日素晴らしい方たちと共演する仕事場があった。
レギュラーのバンドと研鑽できた。
修行のように、毎日追われながら沢山の曲を覚えて歌った。
そのステージ数のこなし方こそ、力をつける最高の場だった。
それが今なくなっている。

現在では、ジャズ歌手を志すと、自分でライブをブッキングし、集客して会場費やバンドのギャラまで保証しなくてはならない。
はじめからそれでは、歌手が育ちようがない。
昼間は他の仕事をしてお金を貯めないと、ライブができない。
そういう条件の中で、何とか音楽を続けようとすれば、自分なりの環境を整える現実的な実力が要る。

最近、何人かにジャズ・ボーカルの在り方に対する苦言を呈されて、色々考えた。
誰も怠けてはいない。
みんなそれなりに頑張っている。
けれど、環境が難しい。
全ての人が才能とチャンスと体力に恵まれている訳ではない限り、好きで続けていくことを尊重することで良いのではないか、私は、その気持ちを助ける立場で良いのではなかろうか、と思い至っている。

ミュージシャンは少なからずイライラするのかも知れない。
お気持ちは分かる。
だから私として、少しでもジャズ・ボーカルの勉強の仕方が分かるように、練習の楽しさが分かるように、レベルアップの場を維持していたいと思うのだ。
それを叶えられた幸運に感謝しつつ。

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このブログ記事について

このページは、kyokotadaが2014年5月16日 12:17に書いたブログ記事です。

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