武道とジャズは似ている?

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内田樹さんが、日本の伝統的な身体の使い方をされている方たちと対談した本『日本の身体』(新潮社刊)を興味深く読んだ。
茶道、文楽、義太夫、漫画家、尺八、雅楽演奏家、マタギ、相撲、治療者などが対談相手。このラインナップを見ただけで涎が出そうだ。この中には、著者の師である、合気道の多田宏氏もおられる。
読み進むうち、発声の奥義にそのまま共通する考察や、リズム・ビートの解説にも当てはまりそうな事例、そしてジャズの演奏のことをいっているとしか思えない、という説明に行き当たった。
どの対談相手も、身体で覚えていることを言葉に変換するにつき、散々苦労しながら話されている。
そのもどかしさも含めて、いくつかご紹介してみると

まずは、能楽師。
内田氏は、謡と舞をしているそうだが、その上達のために楽、つまり楽器もたしなまれては、と勧めてからの解説
「お囃子が入ると「コミ」がすごく大切になります。ちゃんとコミがとれていると、めりはりが出てくる。「ーーーーン!」とか「ーーーーツ!」とかいいますが、お腹にグッと息というか力をいれる、それがコミです。このコミをきちんと取っているかどうか。ただしそれは勝手に取るのではなく、ちゃんと取るべき場所がある。お囃子同士は、いわゆるリズムで合わせるんじゃなくて、コミで合わせる。するとすごくめりはりの効いた舞になるんです」

良く、リズム・ビートの説明で、1拍を長くとか、フレーズの終わりのビートを押す、などと言ってみていることと、とても似ている。言い終わりの締め方がリズムを活き活きさせる。これ、大事です。

次は腹式呼吸では時間も量も間に合わない、と感じた尺八奏者が、ついに行き着いた「密息」について語った部分。
「これは海童道祖もやっいた呼吸法だよ、といわれてやっとそれまでの疑問が解決しました。原理は非常に簡単で、吸う時も吐く時もお腹を膨らませたままでいるのです。骨盤を倒し、お腹を丸く保ったままで吸って吐いてごらんといわれました」
「お腹を張るということは、表層を張っておけということですね。表層はいじるな、深層だけでやれよと」

歌う時、瞬時に吸いきって、その膨らんだ身体のまま発声すると、共鳴場が大きくなる。その身体の使い方ととても似ている。身体はいつも大きくしていたい。

次は、合気道の多田先生。十数人を相手に組み手をする時は自分の動きを上から鳥瞰していると話した後で
「「のる」という状態になる。どんなことでも大体そうですけど、まずことの手順を覚えるんですね。それに少しずつ慣れていくと、角が取れてくる。すると角の丸い三角や四角はだんだん円と同じ理合いになって、ひとつのリズムが生まれてくるのです。そして呼吸法をよく行っているとびゅーんと、動きにねばりとノビが出てくる。そのノビが出る時に、相手(対象)と同化するんです。同化ですから、当然相手と対立的な感覚はありません。相手とひとつになると、湧出といって、潜在意識の中から、習ったこと経験したことが融合されて新しい行動や発想が湧き出て、さらにそれが元になってより新しい世界が現れてくるんです」

ジャズの演奏をしていると、この感じに入る時がある。とくに、素晴らしい演奏家と一緒の時には、どこから出てきたのかと思うような、淀みなく緊張感のある音が紡ぎ出される。のる、という言葉にせよ、角がとれる、リズムが生まれる、ノビが出る、など、音楽とそっくりだ。

まだ他にも、色々と膝を打つような部分があり、時々読み返しては新しく納得している。
歌手はどこまでも「身体」を使う人なので、うなずける言葉に次々と出会えた。
納得し、感じ入る、という感覚が得られると、読書は本当に楽しい。
目は字を読んでいるのだけれど、身体は体験を反芻している。

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このページは、kyokotadaが2015年4月20日 15:04に書いたブログ記事です。

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