アメリカの食べ物はどれも似た味がすると思い、たった5日間滞在しただけなのに、帰る頃にはうんざりしていた。
成田の駐車場のすぐ脇にラーメン屋があったが、飛び込む人もいるだろうと思った。
日本の食事は、多分、世界一だと思う。
和食だけに目を向けても、寿司、天ぷら、トンカツ、そば、うどん他、専門店の種類と品数は、他に類を見ない。
のみならず、イタリア、フランスから中華、インド、韓国他、あらゆる国々の珍しい料理屋も開店している。
そして、そこそこ商売になっている。
おまけに、どの店もクォリティが高い。
日本人は、世界一口のおごった国民だ。
日本食は最近、世界的に大人気だが、経営者はたいてい現地の人々で、日本食と謳っていてその内実はへんてこな料理であることが多い。
日本食にすると客単価も上げられるらしいので、現地の人の口に合えば良い商売なんだそうだ。
翻って中華料理は、どの国でも中国人が経営していて安くてまあまあ美味しい。
戦場カメラマンが話していたが、戦場に最初に出店が出ると決まって、中国人の経営する中華屋なんだそうだ。最前線まで出前してくれるとか。
確かに、どの国に行っても中国の人々がいる。
サンフランシスコの日本人町は、店の看板が次第に韓国のハングルに変わってきていて、日系の人々はちょっと淋しそうだった。
つまり、「海外で稼ぐぞ」という気概を持つ日本人は相対的に少ないということなのだ。
美術の先生によると、日本とイギリスは、全ての文明、文化の最後のエッセンスを溜めている国なんだそうだ。
世界地図を見ると、日本国はユーラシア大陸の最後の端で、こぼれ落ちるエッセンスを受け取る形に見える。
その世界地図を天地逆さまにして大英帝国を見ると、ユーラシア大陸の最西端側で、位置が日本と相似であることが分かる。
大英帝国は、世界中の美術品や発掘品、植物なんかを略奪収集していた。そしてそれらを威張って展示している。
日本は、物というよりも、文明文化のエッセンスを頂戴して、自分たちの美意識に合うまでに洗練させ、他の諸国の人々が到達不可能な地点まで深めて遊んで澄ましている。
驚くのは、「これが普通でしょ」と誰もが信じて疑わない点だ。
それ、ものすごく特殊なんですよ。
料理もしかりで、創作とかいう流行に左右されないほど、歴史の中で洗練され尽くした型を持つ。出汁というものがそもそも独特だ。
イタリア料理の素材や、フランス料理のバラエティも素晴らしいが、主食をご飯、パン、麺類と多様に持ち、あらゆる料理の良いとこ取りを日常的に継続している国は他にない。
毎日、素材や調味料や料理法、食器の使い方に至るまでの情報を細かく集め、家庭の主婦ですら日々異なった料理を供する国など、世界中のどこにも存在しないのだ。
その多様さと、質の高さは、異常かも知れない。
日本人は、総じて「オタク」的だと思う。
多くの事柄に関して、知識を集め、取り組み、深め、極めて楽しむ。
料理にもその体質が生きていて、作る側は必死、食べる側もどんどん口がおごるので、相乗的にエスカレートしている。
ただし、エスカレートしすぎて下品の領域に入り込んでしまうと、客のセンサーに触れて失敗する。蘊蓄を傾ける気も、スノップを気取る気もない人々ですら、そこいらの感性は高級なのだ。
海外に出ると、そういう日本の特殊性が改めて確認される。
だから、海外で日本食レストランを出せば、ほとんどの人が成功できるだろうと思う。
失敗するのは、つけ込む悪人にしてやられてしまうからだろう。
そんな苦労をするくらいなら、日本で良い食材で、楽な商売をするのが得策だ。
つまり、世界地図に従って、ユーラシア大陸や南北アメリカ大陸のお金持ちたちが、うっとり感を味わうために日本に大挙してやって来るという設計図を描くべきなのだ。
美しい日本家屋と庭園とあらゆる料理、そして、願わくばその端っこで、拙いながら音楽も提供させて頂けたらと思うのである。